前回、前々回ほど歴史的というわけではありませんが、今回もかなりオールドなボトルの登場となります。サントリーのデラックストリスです。ゴテゴテとしたボトルデザインが、昭和高度成長期のデラックス感らしくて好感を持てます。
ただし、今回も情報がほとんどなく、時代の特定はかなり困難を極めています。スタンダードのトリスウイスキーは1946年に発売され、戦後の第一次ウイスキーブームを巻き起こした歴史的なウイスキーとして記録が残っていますが、デラックスの名称がつくと突如としてニッチなものとなり、情報が非常に少なくなりました。
このボトルはバーで見つけたのですが、飲みたいとお願いしたところ「お出しできるレベルでは無い(状態がよくない)」と言われ一度断られました。「それでもいいので、そこを何とか!」と無理にお願いして少量だけいただくことができたものです。
SUNTORY TOTYS WHISKY De Luxe
製造者:読み取り不能
仕様:720ml 37%
価格:不明
発売:不明
飲んだ日:2023年9月3日
タイミング:ボトル1/5くらい
香り 優しい麦と工業的アルコールっぽいミント。時間が経つとぶどうっぽさも。加水すると華やかさが生まれるが、香りは薄まる。
味 砂糖水、クローブ、工業アルコールっぽいミント、だが意外と味に艶があり、それなりに美味しさの片鱗はうかがえる。加水するとわずかにモルトっぽさが顔をのぞかせる。
はい、美味しいとか不味いとかそういうレベルのお話ではなく、高度成長期のサラリーマンを支えたウイスキーのロマンを味わう…。そういった、ウイスキーだと思います。アルコール感の中からわずかの美味しさを見つけ出すウイスキーの味わい方といったところでしょう。
さて、このデラックストリスはいつ頃発売されて、いつ頃終売になったのか。そしてこのボトルはいつ頃流通したのか調べたのですが、はっきり言って良く分かりません。
デラックストリスが載っている資料となると、自分が持っているものではもっとも古いもので壽屋から1957年(昭和32年)8月に発刊された『洋酒ABC』にデルクストリス(グラス2コ付)500円で掲載されているものがありました。
1959年(昭和34年)刊の『洋酒とカクテルのABC』、1960年(昭和35年)刊の『SUNTORY COCKTAIL BOOK』にもデルクストリスは掲載されていますが、1966年(昭和41年)6月サントリー刊の『洋酒とカクテル』では、その姿を消しています。とここまで書いていて、トリスウイスキーのwikipediaを確認したところ「1951年(昭和26年) - デキャンター仕様の贈答用二級ウイスキー「デルクス トリスウイスキー」が発売される(1967年(昭和42年)発売終了)」という文面を発見しました(サントリーの販促用小冊子には上記のように1966年で消滅していますが…)。
これでデラックストリスの出自がだいぶ明らかになってきました。先述の『洋酒ABC』にもセリングポイントというページにトリスウヰスキーの欄に「エレガントな贈り物
デルクス」と書かれていて、贈答品用に設定されていたことが分かります。
販売価格は1957年で普通のトリスが640mlで340円、デルクストリスが720ml(グラス2コ付)で500円、白レッテル(白札、ホワイト)が720mlで730円となっています。デラックスとネーミングされていますが、価格とグラスとのセットという仕様を考えるともしかしたらウイスキーの中身は普通のトリスと同じ可能性もあると思いました。同時代のものを飲み比べてみないと分かりませんが…。
さて、壽屋時代の話が先行してしまいましたが、このボトルはサントリーに社名が変わってからのものです。そうなると流通期間は1963年(昭和38年)3月~1967年の間ということになります。ただ製造者がサントリーでのデラックストリスはこのボトル以外に2種類あるようです。
1つはキャップが矢の羽のようなよりアーティスティックな印象のもの。もう1つは少しスリムでのっぺりとした印象のもの。どの順番で発売されたのかは残念ながら資料が見つかりませんでした。このあたりは根気よく調べていくしかないですね。
デラックストリスがなぜ無くなったのかは分かりませんが、戦後の日本人がひたすら走ってきて、1960年代中盤に差し掛かってようやく経済的に世界に負けない国になってきたところで、贈答品としてのトリスウイスキーの役目は終わったんでしょうね。1960年にはローヤルも発売されていますし。そんな時代の端境期のウイスキーに愛おしさを感じます。