本坊酒造のウイスキー製造地と言えばマルス信州蒸溜所をすぐに思い浮かべますが、もともとは本社のある鹿児島でマルスウイスキーを製造していました。それがウイスキー理想の地を求めて、山梨県、そして長野県へと本拠地が移り、1984年に鹿児島での蒸溜はひっそりと幕をおろしました。

 

しかし本坊酒造さんは、増産のために新蒸溜所をつくるのにあえて本坊酒造発祥の地「津貫」を選びました。その理由を本坊社長は日経新聞に「発祥の地である津貫の事業を再生するという思いから」そして同時に「鹿児島であればいいものができるという自信もあった」と答えています。台湾の「カバラン」の成功例も念頭にあったようです。

 

201611月に誕生したその「マルス津貫蒸溜所」からプロダクトされた初のシングルモルトがこの「津貫ザ ファースト」です。自分も抽選に応募したのですが残念ながら外れてしまい、いつも購入する酒販店には並ばず、あきらめの境地でしたが、facebookでフォローしていた有名なジャパニーズウイスキー専門バーに入荷しているという情報を聞きつけ、ついに飲んできました。

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本坊酒造 シングルモルト 津貫 ザ ファースト

HOMBO SHUZOSingle Malt TSUNUKI THE FIRST Distilled 2016-2017 Bottled 2020 No.4483/9984

 

製造者:本坊酒造株式会社

原材料:モルト

仕様:700ml59

希望小売価格:11,000円(税込)

発売:2020427

販売本数限定

 

飲んだ日:2020618

タイミング:ボトル肩口くらい

 

香り:花のような芳しい香り、背景に官能的な杏、加水するとフルーツ感が強まる。

味:杏、南国フルーツ系のフルーティーさから入り軽くピート感、クローブ、花の味わい、ピリ辛。若さと熟成された官能感の絶妙なバランス。加水すると味のボリューム感が膨らむ。

 

バーは緊急事態宣言中はお休みしていたこともあり、津貫はほとんど口開けに近い状態でした。もう少し時間が経てばより一層開いて美味しくなるのではと予想していますが、十分に南国感の片鱗を感じさせる美味しさでした。

 

公式サイトにはこの蒸溜所について、「東側に位置する蔵多山山系の良質な湧水から造られた原酒は、温暖な気候ながらも冬には零下まで冷え込む寒暖差のある環境下、熟成の時を重ねてい」るとしていまして、シンプルな南国感だけでなくもう少し別の要素を感じたのは前述のような気候が関係しているのかもしれないのかなと思いました。

 

津貫蒸溜所と「シングルモルト 津貫 THE FIRST」については「Whisky Magazine」の330日の記事に本坊酒造ブレンダーの草野辰朗氏へのインタビューがありました。ニューメイクの方針としては「温暖な津貫蒸溜所ではダイナミックに熟成が進んでいきます。そのため鹿児島の気候に負けないよう、エネルギッシュかつ深みのある原酒を目指して」いるとしています。

 

また、「シングルモルト 津貫 THE FIRST」に使用している原酒は「ピートレベルは、限りなく0ppmに近い値と言ってもいいでしょう。ごく一部に3.5ppmのライトピート原酒を使用しています。熟成樽のメインはバーボン樽で、全体の約67割。一部にセカンドフィルの樽も含まれており、この原酒を津貫ファーストのキーと位置づけています。その他にもシェリー樽を使用したり、少量ですがアメリカンホワイトオークパンチョン新樽やサクラ樽なども使用」したと答えています。なので、テイスティングコメントにピート感などと書きましたが、樽由来の味わいかもしれません。

 

この「シングルモルト 津貫 THE FIRST」のヴァッティングでは、約2か月間の試行錯誤を繰り替えしたそうで、熟成3年でまとめあげることの難しさとともに樽の存在感の出し方に苦労されたようです。今回はキーモルトにセカンドフィルのバーボン樽を加えたことで原酒由来の麦の旨みや飲み口のコク、余韻の広がりを出したそうです。

 

津貫シングルモルトはまだ最長熟成3年。これからが楽しみな蒸溜所です。
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