ジャパニーズウイスキー探求日記

ジャパニーズウイスキーにいつしか魅せられて、どんどん新しいウイスキーを飲みたくなり、知りたくなってしまいました。ここでは飲んだウイスキー、読んだ本、行った蒸溜所の記録などを気ままに綴っていきたいと思います。

2020年06月

相変わらず旅に出たりした時にその地の酒屋に立ち寄ったりしています。さすがに最近はオールドボトルを見かけることは少なくなってきましたが、昨年埼玉県で久しぶりに珍しいボトルを見つけました。それがオーシャンライフです。

 

高級系のウイスキーはありませんでしたが、このオーシャンライフとサントリー カスタムがまとまった本数が置いてありました。カミさんも一緒で「買うの?」オーラを出されたこともあり、カスタムはあきらめてライフは軽井沢モルトが入っているんだ(心の中でヤフオクでもそこそこするよ!と語り)と説得してレジへボトルを持って行きました。

 

すると店主さんは、これはウイスキーのでき損ないだよと言ったあと、千数百円だった代金を1,000円でいいよとおまけをしてくれました。

ん? でき損ない? そういえばラベルにはスピリッツって書いてあったな。でもウイスキー売り場だったよね??などとうれしさと疑問を抱きながらの帰途となりました。

 

このあたりは後ほど謎を解きたいと思います。

IMGS_1988

三楽 オーシャン ライフ

Sanraku Inc.OCEANLIFE FINE QUALITY SPIRITS

 

製造者:三楽株式会社F

原材料:記載なし

仕様:720ml39

希望小売価格:不明

発売:19898月、1998年頃終売。社名が三楽名義なので、このボトルは19891990年に製造されたものになる。

 

飲んだ日:20191214

タイミング:口開け

 

香り:麦焼酎、爽やかなレモン、軽くスモーキー、アルコール感はあるものの決して嫌な香りではない。

味:麦の甘み、砂糖水、クローブ、ミント、ほんのわずかにレモン、ニユーメイク、ニユーボーン的な味わい。アルコール度数なのか、オールドボトルだからなのか、はたまた軽井沢モルトも入っているからなのか、意外とまろやか。ただし、のど越しでアルコールの辛みを強く感じる。軽井沢のニュアンスはまろやかさ以外は感じないが、これはこれで面白い。

 

ということでウイスキーらしさはあまり感じられない味わいでした。このまろやかなニューボーンみたいなお酒は、その後マスカットっぽいニュアンスを見せたり、ウォッカっぽかったりした後、最後の1杯はマスカット、キウイ、グレープフルーツ、柑橘系の爽やかな香りで味わいは粉っぽい、やや工業的な甘さから入り、グレープフルーツ、シナモン、微かにミルクチョコ。最初はウォッカっぽいところもあるが、その後のフルーツ感がいいという成長をみせました(笑)

 

これはこれで美味しいのですが、ウイスキーというよりウォッカ?表記もスピリッツだしなあ、などと飲んでいる途中でクエスチョンマークがどんどん出てきてしまいました。よし、これは返事がもらえるかわからないけどメーカーさんに訊いてみようと思い立ち、メルシャンさんにメールを送ってみました。

 

すると翌日には早くも返答をいただきました。過去の商品なのにご丁寧に調べていただき、本当にありがたいです。

分かったことは発売が19898月で1998年くらいまでの販売期間であったこと、このオーシャン ライフはニュースピリッツというカテゴリーでの発売だったことがわかりました。

 

メルシャンさんによると、このニュースピリッツが生まれる背景には1989年の酒税法改正で従来の級別と従価税制度が廃止されたことがあります。この改正で特級ウイスキーの酒税は下がりましたが、2級ウイスキーは大幅に酒税が上がり約3倍の市場価格になってしまったそうです。

そこで今まで安価な2級ウイスキーを愛飲していた方向けに、ウイスキー原酒の混和率が少ないものでもウイスキーテイストが楽しめるという製品を開発したものだそうです。

つまり軽井沢モルトは7.9%以下で、ほとんどは川崎グレーンということでしょうか。あるいはDISTILLEDという表記がなくBLENDED & BOTTLEDのみですので、輸入ものかもしれません。

 

あらためて『ウイスキーライジング』にも目を通してみると、ライフの話ではありませんが、興味深い話が書かれています。

80年代に当時の時代に即し、ウイスキーのセールスポイントをライト&スムースにして若者へのウイスキー定着を狙って発売した安価でアルコール度数の低い「Q」「NEWS」「Yz」「NO SIDE」が、徐々に姿を消していったこと。等級制度は終わったが、規制が敷かれブレンデッドウイスキーにするために少なくとも8%のモルトウイスキーを含まなければならないためニッカの社員が7.9%以下の商品開発に勤しんだようです。

 

担当官庁の大蔵省は、ニュースピリッツはウイスキー類と誤認されることがないよう、原酒の混和割合、着色度、ラベル等の表示及び広告宣伝について厳格な承認基準を定めていたようです。

 

結局、これらの商品を投入してもウイスキーの販売は回復せず、ニュースピリッツは時代の徒花となってしまったわけです。しかし旧12級商品は安く美味しく進化していき、ニュースピリッツの役割は、その後の手軽に飲めるハイボールブームへと変わっていったということでしょうか。
IMGS_2692

前回に続きキリンの新商品で「富士」です。

こちらは同じグレーンでも対極に位置するような設計がなされた商品のようで、公式サイトにアクセスすると「富士御殿場から生まれる蒸溜所を体現したシングルグレーンウイスキー」というキャッチコピーが最初に現れます。

 

価格も56,000円で流通しており、高品質のシングルグレーンウイスキーとしてマスコミ向け新商品発表会で説明されていたようです。富士御殿場蒸溜所にあるマルチカラム、ケトル、ダブラーの3種類の蒸溜機を使い、香味タイプの異なる3種類のグレーンウイスキー原酒を組み合わせて、それぞれの香味特長を生かした味わいに仕上げたそうです。

IMGS_2624

キリン シングルグレーンウイスキー 富士

KIRIN SINGLEGRAIN WHISKY FUJI AGED IN CASKS

 

製造者:キリンディスティラリー株式会社

原材料:グレーン、モルト

仕様:700ml46

希望小売価格:オープン価格(実勢価格は税込56,000円)

発売:2020421

 

飲んだ日:202066

タイミング:ボトル肩口

 

香り:芳醇な酸味、程よく熟したリンゴ、渋み、時間が経つと軽くスモーキー。

味:杏、焦がした麦、ミルクチョコレート、ほろ苦、やわらかな味わいながらもスモーキー。

 

この前に飲んだ「陸」もコスパとか考えると良かったなと思いましたが、こちらは上質な味わいでなめらかなバーボンを思わせました。以前に蒸溜所限定発売の「ディスティラリーズセレクト シングルグレーン リッチ」を飲みましたが、そちらよりも熟成感や複雑さを味わえました。ノンエイジながらそれなりのお値段がするだけのことはありました。グレーンウイスキー侮るべからざるです。

 

このボトルデザインですが、全体的に洗練されたデザインで美しいものになっています。さらに瓶底には富士山が浮かび上がる演出がなされていて、棚に飾るのにも一番前に置きたくなる楽しい1本です。バーで飲むのもいいですが、自ら持っておきたくなるウイスキーですね。
IMG_2624C

IMGS_2626
 

緊急事態宣言に続き東京アラート、そして休業要請も解除され、少しずつ日常に近づきつつありますね。自分の仕事も一時期はテレワークオンリーでしたが、少しずつ出社や外出することも増えてきました。電車の混雑具合も自分の通勤経路はコロナ以前ほどではありませんが、7割くらいに戻ってきている感覚です。

 

ということで少しずつバー飲みを再開し始めました。もちろん、まだまだ予断を許さない状態なので、密でないことを確認して入店しています(お店の方も相当気を配っていらっしゃいますね)。

 

さて、この状況でもウイスキーの新商品は出ているわけで、その中でも限定生産でなく一般流通する商品で、いい声を聞いたのがキリンの2商品でした。行きつけのバーに入荷されたという話を聞きましたので、早速まずはローコストタイプの「陸」から飲んでみました。

IMGS_2621

キリンウイスキー 陸

KIRIN WHISKYPURE & MELLOW RIKU LAND DISCOVER

 

製造者:キリンディスティラリー株式会社

原材料:グレーン、モルト

仕様:500ml50

希望小売価格:オープン価格(実勢価格は税込1,400円前後)

発売:2050519

 

飲んだ日:202066

タイミング:ボトル半分くらい

 

香り:甘くフルーティー、さくらんぼ、マンゴー、赤肉メロン、艶っぽくて、予想していたより数段心地よい香り、時間が経つと熟したバナナ。

味:熟したバナナ、桃、さくら餅とともにクローブ、山椒、強い苦みが押し寄せる。まろやかな入り口(まさにメロー)ながらも切れ味は鋭い。この強い苦みは記憶にあるなとたどってみると、富士御殿場蒸溜所のヘビータイプのグレーンウイスキーだったのを思い出しました。

 

このウイスキーはグレーン主体で、「ウイスキー本来のおいしさを求めて、世界の大陸を見渡し、良質な原酒を厳選し」たそうです。公式リリースからスコッチ、バーボンカナディアン、そして自社のジャパニーズウイスキーを使用したであろうことが予想されます。

 

グレーン主体で、この価格帯で、この味わいはなかなか驚きの出来だと思いました。価格帯を考えるとかつての富士山麓樽熟原酒50°のあたりに属すると思いますが、その富士山麓も相当コスパが良かった印象があるので、キリンさんが得意とする商品作りなのかもしれません。

 

商品のマーケティングは綿密に行っているみたいで「自由で、解放されたい」「いろいろな飲み方を楽しみたい」「上質な時間を楽しみたい」という気分に応えるウイスキーが求められており、そのニーズに応えるために開発したそうです。

 

自分は面倒くさがりなのでストレートで飲んでしまいますが、「ハイボールはもちろん、ホットや水割りなど、どのような飲み方でもおいしさが実感できる中味設計」にしたそうです。こういう飲み方で低価格帯商品であれば、アルコール度数を落とした商品で考えるのが普通だと思います。しかしそこを、あえて伝統の(?)アルコール度数50°にこだわるところがキリンさんらしくていいなあと思うのです。
IMGS_2623

以前にステファン・エイケンという外国人の方が執筆した『ウイスキー・ライジング』という本を紹介させていただきました。ジャパニーズウイスキーの魅力が広く海外の方に知られるようになって、自ら飲むあるいは購入するガイドが必要になるのでしょう。同じように外国の方が執筆し、分厚い豪華本があります。


その名も『世界が認めた日本のウイスキー』ドミニク・ロスクロウ/著(X-Knowledge刊)です。

IMGS_2633 

本書は『ウイスキー・ライジング』より1年早い201711月に発刊。美しい写真を大きめに掲載するなど、海外の方にジャパニーズウイスキーを魅力的に見せるように意識された本造りとなっています。

 

コンテンツは日本のウイスキーの歴史、日本のウイスキーの造り、日本のウイスキーの蒸溜所、テイスティングノート、日本のウイスキーの興隆、日本のウイスキーバー、世界のウイスキーバー、ウイスキーカクテルと料理のペアリング、日本のウイスキーの未来、さらに日本の観光案内、日本のウイスキーリストなど初心者からマニアックなファンまで惹きつけるものとなっています。

 

『ウイスキー・ライジング』と比較すると細かい調査などは少なめです。たとえば日本のウイスキーの歴史は大部分が勃興期の頃までで1950年以降ウイスキーの一般化やその後の苦闘のじだいなどは軽くしか触れられていません。各蒸溜所の紹介も現場での取材の話は少なめで、客観的な解説にとどまっているものが多いです。

 

その分、テイスティングノートは当時のスタンダードからマニアックなモルトウイスキー、ブレンデッドウイスキーまでをとりあげ、飲んだ時がイメージしやすい表現と、風味の構成要素をピート、フルーツ、ウッド、スパイス、シェリーに分けて円グラフに表したりとかなり工夫された造りとなっています。

 

また海外でジャパニーズウイスキーが飲めるバーが心躍る内容となっています。美しい店内写真と飲めるジャパニーズウイスキーリスト付きでサントリー、ニッカ、イチローズモルト、軽井沢といったメジャー高級ウイスキーの他にマルス、若鶴サンシャイン、ホワイトオークあかしなど地ウイスキーの珍しい系まで掲載されていて、日本人でもその地に旅したら、思わず行きたくなってしまう内容となっています。

 

ジャパニーズウイスキーの総合的な情報量であれば『ウイスキー・ライジング』に評価を上げざるを得ませんが、こちらは読んで楽しめる、ウイスキーを飲んだ気になる、バーに行った気になる本と考えてみるといいと思います。

 

それにしても日本のウイスキーをきちんととらえてみようという動きは、海外の方のほうが熱心なのですかね。模造ウイスキーからはじまり、竹鶴政孝がスコットランドに渡りウイスキーの造り方を学んできてから約100年。その間かなりの試行錯誤があり、多くの企業がウイスキー製造に情熱を傾け、挫折を乗り越えて今のジャパニーズウイスキーがあります。これを日本の文化としてメーカーも含めて後世に残す努力をしてもいいのではと思うのです。

ここ最近のジャパニーズウイスキーブームに合わせて、過去に閉鎖した蒸溜所やメーカーが再参入してきています。

 

そのうちの1つ東亜酒造は、かつてゴールデンホースのブランド名で地ウイスキーブームをけん引した名門でした。しかしその後のウイスキー不況やバブル崩壊などがあり、経営不振のため2000年に民事再生法を申請。2004年にキング醸造グループに入るもウイスキーの原酒廃棄の方針を出され、当時在庫していた原酒のほとんどを創業家だった肥土伊知郎氏が笹の川酒造の協力を得て引き取った話は有名です。

 

公式サイトによると肥土氏に原酒を譲渡してから、いつかはウイスキーの製造にチャレンジしたいという思いを持っていましたが、ようやく環境が整ってきた判断し20161111日に再びゴールデンホースを製造販売することとなりました。ただし今回は自社での蒸溜は行わず、輸入ウイスキーのブレンド、樽貯蔵から再挑戦したとのことです。

 

かつてのゴールデンホースも、バランタインの原酒を使って商品化していたこともありました。今回飲む武蔵は複数のモルトをブレンドしたピュアモルトウイスキーとのことですが、かつての原酒と傾向がおなじなのかなど気になるところはいくつかあります。

IMGS_1989

東亜酒造 ゴールデンホース 武蔵

TOASHUZOGOLDEN HORSE MUSASHI PURE MALT WHISKY

 

製造者:株式会社東亜酒造

原材料:モルト

仕様:700ml43

希望小売価格:5,500円(税込)

発売:20161111

 

飲んだ日:20191123

タイミング:口開け

 

香り:青リンゴ、蜂蜜、微かにスモーキー、全体的に香りの立ちが弱い。時間が経つとバニラ中心。

味:モルティー、青リンゴ、スモーク、ピート感、苦み、うっすらと塩気、まろやかだけどパワーもそこそこあり、バランスが良い。普通に美味しい。昔のゴールデンホースと似ているニュアンスもある。いい出来だけど、個性は少な目。

 

自分が飲んだ輸入モルトを使ったゴールデンホース・シンフォニー特級と比較すると似たニュアンスはありましたが、シンフォニーはフルーティーさが強く、武蔵は麦感が強い傾向を感じました。しかしこのボトル、その後大きな変化をとげました。ボトル2/5くらいのところでは、香りは青草一色、あるいは替えたばかりの新品の畳。味は青リンゴと青草をミックスさせたものにピートをぶちこんだもの。荒々しいわけではないが、それなりにいろんな意味でインパクトのある味わい。

 

最初のうちは好みの味わいだったのですが、ボトルのラベル上部あたりくらいから急速にドライ化が進むと同時に青草感が強まってきてしまいました。自分はほとんどのウイスキーを不味いと思うことが無いのですが、青草系だけは唯一苦手で、このボトルはその傾向がでてしまいました。

 

青草系で思い出すのはミルトンダフ。一部のボトルは青草感の味わいを覚えてしまい、珍しく苦手としています。ミルトンダフはバランタインの原酒の1つです。ということは、もしミルトンダフの原酒が使われているのだとしたらかつてのゴールデンホースと同じ仕入れルートなのかもしれないとぼんやりと思いました。まあ、他にも青草感のある銘柄・原酒はあるでしょうし、そんなにシンプルなものでもないと思っていますが。

 

今後、東亜酒造はブレンド技術を磨き、いつかは自家蒸溜をしたいとコーポレートサイトにその思いが記されています。コロナ問題や新規蒸溜所の乱立など、参入障壁は山ほどありますが、「真摯に誠実にウイスキー造りに取り組」まれるとのことなので、陰ながら応援したいと思います。
IMGS_1773

↑このページのトップヘ